red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

茨木のり子

茨木のり子の詩を時々読んでいた時期がある。

2010年にちくま文庫から出た『茨木のり子集 言の葉(全3巻)』 は
彼女の作品がまとまって読める手軽な文庫本なので、いつかゆっくり読むつもりで購入していた。


茨木のり子集 言の葉1』にも収録されている詩、「汲む」のY.Y.とは山本安英だと知ったのは先日のこと。
茨木のり子山本安英と親交があったのだ。


茨木のり子、35歳のときの作品、「汲む」を久しぶりに読んだ。


********(『茨木のり子集 言の葉1』136頁より抜粋)

汲む   
   −−Y.Y.へ−−


大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました


初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました


私はどきんとし
そして深く悟りました


大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
こちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと…
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです
********


茨木のり子集 言の葉』には
山本安英について書かれたエッセイも何篇か収録されている。


Kさんが4月に朗読する『夕鶴』の話は、つうを演じた女優、山本安英から
茨木のり子の詩、エッセイにまで広がっていって…
私は、しまい込んでいた本を引っぱり出し読み始めた。



山本安英の花」というエッセイの冒頭、


********(『言の葉2』209頁より抜粋)
桃李言わざれども下おのずから蹊を成す
という中国の古い言葉があるけれど、ことごとしく自己宣伝をしなくても、
桃や李は馥郁と咲くことによって人々を惹きつけ、その下には自然に道ができてしまう、という意味なのだろう。
(中略)

この美しいたとえにぴったりの人を今の日本で探すなら、山本安英さんの奥ゆかしさが一番ふさわしいと、いつも憶う。

********


茨木のり子集 言の葉?(全3巻) (ちくま文庫)

茨木のり子集 言の葉?(全3巻) (ちくま文庫)

茨木のり子集 言の葉2(全3巻) (ちくま文庫)

茨木のり子集 言の葉2(全3巻) (ちくま文庫)

茨木のり子集 言の葉3(全3巻) (ちくま文庫)

茨木のり子集 言の葉3(全3巻) (ちくま文庫)