『王国・その３・ひみつの花園』◇

よしもとばなな『王国』三部作の３冊目
『王国・その３・ひみつの花園』

雫石は楓の家を出て恋人（真一郎）と一緒に住み始める。

真一郎の離婚が成立して
ようやく二人の新しい生活が始まるはずだった。

真一郎の亡き友、高橋君の作った庭を二人で見に行ってから
彼ら二人の関係性は決定的に変わる。

真一郎の原点ともいえる高橋君と二人だけの園芸部。
そして
心臓の弱かった高橋君が自宅に作った庭は「天才」の作品だった。

引用＊＊＊
高橋くんの世界は、人が心に思い描いた楽園…夢とか、希望とか、
生きているということ全ての証だったのだ。

「生きていたい」
なによりもそのメッセージがひしひしと伝わってきた。
「こんなに美しい世界を、僕は見ていたい、一日でも長く」
それが高橋くんの言いたかったことだった。

＊＊＊引用終わり

読んでいると
「高橋くんの庭」が目に浮かんできて涙ぐんでしまった。

引用＊＊＊

………自分が溶けていきたかったのだ。
苦しみも悲しみも欲も忘れて透明になってすっと、
大きなものの中に抱かれてただ呼吸していたい、溶けたいと。

そして最終的にはそれはほとんど成功したのだろう。
高橋くんだけでもない、庭だけでもない、
ちょうど真ん中のあの場所がふっとできたのだ。
植物とばっかり過ごしたその短かった人生の最後の最後で
彼の精神は完成に近づいて、きっとその頃にはそのことさえ
どうでもよくなっていて、わりに悔いなく彼は旅立ったのだろう。

＊＊＊引用終わり

雫石は彼が生きている内には会えなかったが

高橋くんの庭は確かに雫石を変えた。

私にもとても印象深い庭がある。

四国・高松市郊外にある「イサム・ノグチ庭園美術館」

この彫刻庭園に佇むと自分が透き通っていくような気持ちになる。

小高い丘に登って眺める風景には時も忘れる。

時々訪れたい場所のひとつで大切なところ。

（イサム・ノグチ庭園美術館のサイト）
http://www.isamunoguchi.or.jp/gamen/home.htm

そのイサム・ノグチの最後の作品は札幌市郊外のモエレ沼公園。
是非行ってみたい場所のひとつだ。

『王国』の「高橋くんの庭」は雫石に力を与えた。
誰にでも大切な場所がある。
そこを思うだけで幸せな気分になったり、勇気が湧いてきたり…

美しい世界と触れることができるのは何と幸せなのだろう！！！