red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

『食堂かたつむり』◇

『食堂かたつむり』小川糸著。


文庫本になったら読もうと思っていた本。

昨日(6日)から映画も公開されたらしい。

(ちょうど映画公開初日に読んだ)


私はこの小説に流れる空気が好きだ。


主人公の倫子は
恋人に家財道具全てを持って逃げられて
ショックのあまり声も失い…
ただひとつ残った祖母の「ぬか床」だけを持って
故郷に帰る。


故郷には
倫子には到底理解出来ない母が住んでいる。


その母が嫌いで
彼女は家を出て祖母と暮したのだ。


祖母はとっくに亡くなり
傷心の倫子が帰れる場所は今や
その母の家しかなかった。


料理好きの倫子は
一日一組限定の
「食堂かたつむり」を始める。


食材に対する彼女の係わり方が
食材が調理されていく過程が
出来上がった料理の湯気までもが
見える!!!


読んでいて
美味しそうだなあ…と思う本だ。


倫子は食材達と言葉を交わす。

(引用)
***
………それぞれの状態を確かめ、どう料理してほしいのか?を尋ねる。
そうすると、食材達が自ら、どう調理するのが一番ふさわしいのかを、
語りかけてくれる。
…私には確かに、彼らの発するかすかな声が聞こえるのだ。
***
(引用終わり)


倫子は予約してくれたお客さんと前もって会う。
そこで
何か食べたいものがあるか
どんな食事会にしたいか等を聞いて
彼らにふさわしい最高の献立を考える。



その日、一夜のお料理が
食べた人たちの心にじんわりと沁みる。
そして
「奇跡」を起こす…


奇跡というのは
大げさかも知れない。


特別の
自分のためだけの「お料理」は
気持ちが緩んで
本当の自分を発見するきっかけになる、ということだろう。


その時
その人に
必要な力をもたらす、ということだろう。


倫子の母に
ペットとして飼われていた豚のエルメス
とても可愛がられていた。


母は病で死が近づき
劇的な出会いを経て
死の間際に「ずっと好きだった人」と結婚する。
その披露宴では
エルメスの命を、姿を変えたエルメスを戴く…


私はペットを飼ったことがなく
家族同様の動物と暮らしたことがないので

この場面が見ていられない(読んでいられない)ということはなかったが


ペットと暮らし、家族同様の触れ合いがあれば
多分とても辛い場面だろうと思う。


ペットとの思い出がない私は
物語の主人公・倫子の思いのままに
彼女にスーと心を寄せて

彼女の辛さや思いを追体験のような感じで読んだ。



何を作る場合でも
作り手の波動はその物に入る。


倫子の料理が
食べた人たちを幸せにしたように
料理の波動は直接的だ。


毎日、家族に対して
どんな波動で料理をしていたかな…と振りかえってみる。


私は
食べるのは好きだけど
お料理好きではない。


好きではないけれど
私自身も食べたいから作る。


これは多分、美味しいわ♪と考えながら作っているような気がする。


『食堂かたつむり』は
食材が
瑞々しくて
愛おしくて
その命を余すところなく使い切りたい、と思える場面に満ちている。


なんとなく、美味しいはず…から

食材達と会話できるまでになりたいなって思った。

([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)

([お]5-1)食堂かたつむり (ポプラ文庫)

食堂かたつむりの料理

食堂かたつむりの料理