red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

泣き声

Y子さんと会った帰りの私鉄の電車は通勤帰りの人も乗っている時間帯で、
私の乗った車両には赤ちゃんを抱いている若い母親がいた。


その赤ちゃんは、大泣きしていて
母親は、なんとかあやそうとあれこれするのだが
赤ちゃんは渾身の力を振り絞って泣き続けている。


車内に響く泣き声は相当な音量なのだが
乗客を見渡してみると、皆、穏やかな表情をしている。
苛立った感じの人が全くいないのだ。
赤ちゃんが泣くのは仕方ないと諦観した感じではなくて
もっと積極的な肯定の表情で、赤ちゃんを見る眼差しが優しいのだ。
「どうした?何を泣いているの?」と問いたげな人や笑顔の人や
面白い顔で赤ちゃんをあやそうとする人や…


仕事帰りで疲れているだろう人たちに、この日の、この赤ちゃんの泣き声は
ダメージというより癒すパワーのある声だったのかもしれない。


私も含めて、この日この時間この車両に乗りあわせたことで赤ちゃんの泣き声を浴びたわけだが、その声は居合わせた人たちが聞くことになっていた声だったように思える。
それは例えば、お祓いの時の声のようにミラクルな力を持っていて、その声の波動を浴びた人たちの何かが変わるような…奇跡のようなひととき、
たぶん、そのために赤ちゃんは渾身の力を込めて泣き続けてくれたのだ。


ほとんど乗る機会のない私鉄だが、乗っている人を見れば
沿線に住む人たち全体の雰囲気のようなものが感じ取れる。


Y子さんも、その沿線の住人で、見せてもらった彼女の家族写真にも、同じような和やかで上品な雰囲気があった。


街の波動、住む人たちの雰囲気って一括りには言えないけれど、個々人を見るのと同じように一つの街なり地域を見ると、ある種の傾向は見てとれるものだ。


赤ちゃんの泣き声と穏やかな人たち…
心に残る短編小説でも読んだような満ち足りた気分で私は電車を降りた。