スナップ写真

父は遺影の準備をしていなかった。
とても元気に過ごしていたので
まさか、こんなに早く必要になるなど思いもしなかったのだろう。

病気が分かってからは、写真を撮る気分になるはずもなく…
遺影には、今まで撮っていた沢山のスナップ写真の中から探そうと母と話していた。

病気が分かる数ヶ月前、2011年10月、家族で集まって父のお祝いをした。
このお祝いの日のことを嬉しく思い出すと言っていた父、

この時のスナップの中に父が笑っている写真があった。
少し横を向いて笑っている父は撮られていることに気づいていない。
カメラ目線ではない自然な表情が素晴らしい一枚で私が撮ったものだ。

昨年12月、父が入院した頃、
Photoshop（フォトショップ）を使って写真を加工する講座に出たので、笑顔の父の写真の背景を消して、スタジオで撮ったような感じに仕上げてみた。

お見舞いに帰った時、母に見せたら、まだまだ先の話だけれど、この写真も候補のひとつにしようということだった。

それから、ひと月も経たないうちに父が逝ってしまって
どの写真にするか葬儀屋さんに訊かれた時、
母は他の候補となる写真を見ている余裕がなくて
私が撮って加工した写真を使うことになった。

この写真の父は、
お通夜、葬儀、自宅の祭壇でも
楽しそうに笑っている。

この写真を見た人は皆、いい顔だと言う。

お逮夜で実家に帰っているとき、
母が祭壇の父の写真を見ると元気が出ると言った。
初めは、そんなふうに思わなかったらしいが
気分が落ち込んだ時、祭壇で笑う父をみると気が晴れてきて…
しょんぼりしている母を父は笑い飛ばしてくれるのだそうだ。

この写真にして良かった、
思った以上にいい写真だったと母は言う。

この写真の父は心から笑っている。
父の笑顔は母を元気にする。
父を知る者の顔を和ませる。

いいスナップ写真を撮らせてもらった私も
この父を見るたび笑顔になる…