未来圏
詩人、和合亮一に浮かんだという宮澤賢治の詩の一文、
「新たな新人よ 嵐から雲から光から 新たな透明なエネルギーを得て 人と地球にとるべき形を暗示せよ」
ここを読んだ時、私に浮かんできた言葉は「未来圏から吹いてくる風」だった。宮澤賢治に「生徒諸君に寄せる」という未完の詩がある。
その中から和合は引用したのだった。
「未来圏」という用語も、そこで使われている。
******(「生徒諸君に寄せる」から抜粋)
(略)
新しい風のやうに爽やかな星雲のやうに
透明に愉快な明日は来る
諸君よ紺いろした北上山地のある稜は
速かにその形を変じよう
野原の草は俄かに丈を倍加しよう
(略)
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である、
諸君はこの時代に強ひられ率ひられて
奴隸のやうに忍従することを欲するか
むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ
宙宇は絶えずわれらに依つて変化する
潮風や風、
あらゆる自然の力を用ひ尽すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ
(略)
新たな詩人よ
嵐から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ
(略)
諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
(略)
******(抜粋終わり)
池澤夏樹に『未来圏からの風』という本がある。
1996年刊行で大事に持っていた本だが、掲載されているモノクロの写真が素晴らしいことに、本棚の整理をしていて久しぶりに開いた時に気付いた。
この本のタイトルも宮澤賢治の詩からで、池澤夏樹は、「未来圏」と使われている、もうひとつの詩「未来圏からの影」も紹介している。
彼は、紀行文の性格上、影より風とタイトルに付けたと書いている。
「未来圏から吹いてくる透明な清潔な風」
詩の全文を覚えていなくても、この一文はとても印象に残っていた。
覚えていることも忘れていたが、記憶のどこかに大切に仕舞われていたようだった。
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