red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

とげ抜き師◇

『はじめまして、本棚荘』 紺野キリフキ著。


とげ抜き師が出てくる小説。
元々、この『はじめまして、本棚荘』は『とげ抜き師』として発表された。


*****
(会話とメールの「」部分は抜粋)


「昔はねえ、お家賃というのは本で払ったものですよ」と言う大家さん。

そのアパートの名前は本棚荘。
部屋の中はもちろん廊下や外にまで、あちこちに本棚がある。


ここに住んで「とげ抜き師」として仕事をしていた姉に留守番を頼まれた妹が主人公。姉は外国でとげを抜いてくる、と言い出かけた。


妹も姉ほどではないが「とげ抜き」が出来る。


田舎から東京に出てきた妹は気にかかっていた、
姉が本当にとげ抜き師として働いていたのかどうか、
食べていけるほどの収入があるのかどうか…


ともかく妹の本棚荘での生活が始まり、
すぐに「とげ」を抜いて欲しいという電話が入った。


妹が東京で初めてとげを抜いた百合枝さんのとげは「葉っぱ」だった。


妹は姉にメールを出す。
「肩のところだけでも抜いてほしい、というのでわたしが抜きました。
でもあれはとげではない気がします。あんなものは山では見たことがありません。彼女は、葉っぱだ、と言っていました。連絡がほしいです。
彼女はまた来ると言っています。」


姉からの返事は妹の言うことには答えていなかった。
「この国は、とげがたくさんある。
抜いても抜いてもとげが来る。」

*****


意味深いことを示唆している物語だ。


「とげ」って、
例えば「とげのある言葉」とか「心にとげが刺さったような」とか
こんなふうに使われる「とげ」であったり…
(この形のとげは目には見えないけれど)


その人の悲しみのようなものが体に「とげ」として表れたり、
ストレスで体と心が疲れたら「とげ」が出たり…


この本は「とげ」とは何かを考えさせる。


この話の中では「とげ」は誰にでも見えるし、触ることも出来る。
触ると怪我もする。

登場人物のひとり、野良サラリーマンは体中がとげだらけだ。


私も「チクチク痛い人」を実際に感じることはある。
もし見えたら、こんなふうに体中がとげでいっぱいなのだろうと思ったり…


見える、さわれる、というのは対処もしやすいから
その意味ではいいことなのかも知れないな、と思ったり…


*****抜粋

わたしは昔のことを思いだしていた。
まだ姉と山で暮していた頃、姉のとげ抜きを手伝うことがあった。姉はそのたびに「おまえはわたしよりうまいかもしれない」とほめてくれた。けれどそれは細く小さなとげのときだけだった。大(おお)とげの際、姉は決してわたしに手伝わせなかった。
奥の部屋にこもり、一晩かけて、ときには何日もかけてとげを抜いた。
わたしが、手伝うよ、と言っても部屋に入れてくれさえしなかった。
大とげを抜いたあとの姉は心底くたびれたようすで床についていた。
わたしが「だから手伝うって言ったのに」と言っても首をふった。
おまえの抜き方ではだめだ。
どうして。
おまえはとげを抜くのがうますぎる。だからおまえはだめなのだ。
*****


うまくとげを抜いてもらっても、またとげが出てくる。
結局、痛い思いをして抜いてもらうほうが
その後の展開がうまくいくということだろうか…


「とげ」として自分が持っていた何かを手放すには
痛みに苦しみながらのほうが効果的だということだろうか…



『はじめまして、本棚荘』の作者、紺野キリフキ。
彼が紡ぐのは不思議で風変わりな人たち(とげ抜き師、猫遣い、眠り姫、
野良のサラリーマン等)の物語。


気になる人たちばかりが登場する物語だった。


はじめまして、本棚荘(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

はじめまして、本棚荘(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)