red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

『レフト・アローン』◇

『レフト・アローン』藤崎慎吾(ふじさき しんご)著。


『クリスタルサイレンス』の作者として知っていた 藤崎慎吾。


奄美クレーターを見てきて興味が湧いたので調べていたら、
彼の短編集『レフト・アローン』に「星窪」が収録されているとのこと。

早速、取り寄せて読んでみた。
(思いたって翌日には本を手にできる幸せ♪)


短編「星窪」には
田中一村と思われる画家Tと奄美クレーターを見つけた高校教師Yが登場するのだった!
時代はTとYが手紙のやりとりをした頃から160年後という設定。


奄美クレーターと田中一村を題材にした短編があったとは、
なんと嬉しいことだろう!



「星窪」で藤崎慎吾は画家Tに語らせる。

*** 
(高校教師Yへの手紙)
………
私は生計を立てるために、大島紬の染色工として働いております。
大島紬といえば、ご承知の通り泥染めの糸を使うわけですが、
同じ工場で働いている仲間の何人かは、次のようなことを信じているようです。
――最近は鹿児島や宮崎でも泥染めをやり始めているようだが、
どうしても奄美のような光沢が出ないと聞く。それもそのはず。
奄美には大昔、空から星が流れ落ちてきて、そのかけらが島中に飛び散った。
おかげで土壌は一変し、星に含まれていた鉄分が泥に混じるようになった。
絹糸が艶やかな黒に染まるのは、その特別な泥のおかげなのだ。――
真しやかな話ではあります。しかしクレーターが本物であれば、
その信憑性はいやが上にも高まるでしょう。
私のように貧しく地を這うような暮らしをしている者にとって、
天文というのはまさに雲上の世界です。かといって泥染めのことがあるように、生活と全く無縁ではありません。………
***

地質調査をしていたYにクレーターが本物か手紙で尋ねる画家T。
そして、どうやら本当のことらしいと分かるのだ。


「隕石は地上に到達する寸前に地表数百メートルあたりで空中爆発をしたらしい。含まれていた鉄分を多量に含む隕石が地表に降り注いだ。
それが有名な大島紬の泥染めの泥に特殊な成分変化をもたらし、
独特の光沢ある染色が出来る。」
この説が肯定されたわけだ。


以後も手紙で二人の交流は続くのだが

画家Tが石と会話をする件には引き込まれる。


すぐに読めてしまう短編だが、
「星窪」には多くの史実も含まれているから
どこまでがフィクションなのか分からなくなってくる。


田中一村その人も、
まさに「星窪」に描かれた画家Tの通りであったろうと思う。


画家Tの手紙からは一村の人物像がリアルに感じられて
益々、田中一村に惹かれ魅了される♪


藤崎慎吾の『ハイドゥナン』の本のカバーには
田中一村の絵「アダンの木」と「ビロウ・コンロンカに蝶」が使われている。


彼も田中一村のファンなのだろう。


次は『ハイドゥナン』を読もうと思う。
明日かあさってには届くだろうから…


レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)

レフト・アローン (ハヤカワ文庫JA)

ハイドゥナン (上) (ハヤカワSFシリーズ・コレクション)

ハイドゥナン (上) (ハヤカワSFシリーズ・コレクション)

ハイドゥナン (下) (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ハイドゥナン (下) (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)