red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

『夢違』◇

『夢違(ゆめちがい)』恩田陸の新刊。
ほぼ500ペーシの長編。


夢を映像として視覚化できるようになった近未来の物語。

夢を可視化するためにヘッドフォンのような装置を頭に付けて寝る。
これは「夢札を引く」と表現される。
夢の記録が夢札、その夢札を読み取る専用の装置は獏。
獏に映し出される映像をみて夢解析、夢判断をする専門家がいる。
彼らは夢札を観すぎると夢酔いと言われる状態になることがある。
獏で夢札の映像をみるには国家資格が必要だとされている。


夢判断を職業として選んだ野田浩章、予知夢の精度が注目されて夢札が開発された初期の段階から「夢札を引いていた」古藤結衣子、
彼女は事故で亡くなっているはずだった。
小学校で起きた神隠しや集団白昼夢に彼女が関係している疑いが濃厚になってきて…小学生たちの夢札の分析をする野田、彼の兄の婚約者だった結衣子、絡まった糸が次第に紐解かれていくのだが…


映画を観るように他人の夢を観ることができる近未来、

予知夢をみる結衣子が夢札を引いて夢を公開していたのは
夢を変えられないか、夢の中の未来を回避したいとの思いからだったが…


夢と現実、日常と非日常の境目が曖昧になっていく不思議な物語、
物語の後半は野田と結衣子の関係性にと失速してしまった印象がある。

『夢違』は地方新聞数紙に掲載されていた連載小説だから、
多分初めから枚数は決まっていたのだろう。


私は書かれていない物語を読む時がある。

書かれた物語をベースに勝手にイメージが膨らんで
私の読みたい物語を読むことがある。


私には『夢違』の結衣子が常野(とこの)一族に思えてきた。
恩田陸『光の帝国』に登場する超人的な力を持つ一族)
常野物語が続いているとずっと感じているのでその一場面のように読んだ。


「夢は外からやってくる」ずっとそう感じていたのがこの本になりました、と恩田陸は言う。人は何処まで「視る」ことができるのか、と考えさせる。


眠り続ける結衣子を前に野田浩章たちが話をしている、
「………彼女が我々の夢に介入してくること、いや、夢だけでなく現実に介入してくること。彼女の夢見る時間が長引けば長引くほど、その介入力は強くなっていく。彼女が完全に夢の住人になった時、彼女は万能になり、彼女はこの世界の『どこにでもいる』存在になるんだ」(476ページ)



週刊朝日の記事で恩田陸は言っている。

******(抜粋)
東日本大震災が起きた時、都内で地下鉄に乗るところだった。
「一度ホームまで降りたんですけれど、今日は地下鉄に乗りたくない、なんだか乗りたくないなって思って、地上へ引き返してきたところだったんです」
あたかも自身の作品世界で起きそうな不思議な体験だった。幸い、仙台の実家は無事だった。しかし、郷里の惨状にしばらく仕事が手に付かなかった。気力が戻ったきっかけは、やはり小説だった。
「言葉は一見無力だけれど、変わってしまった世界を生き抜くのに必要なのも、また言葉ですから」


「デジタル化で機械がどんどん小さくなり、目に見えなくなっています。このままいけばいつか科学は魔法になり、私たちの生活は古代に戻るんじゃないかって思ったんです」

******


夢違

夢違