red-earth's blog

(2017.6.25)red-earth’s diary から移行しました。女性ヴォーカル好き、写真好き…

『死神の精度』◇

伊坂幸太郎『死神の精度』2005年刊。


先週に続き以前の伊坂作品を読みたくなって
本棚から引っ張り出してきた本。
彼の本は読み始めると当分、次々に読み続けたくなるのだ。


5年ぶりに読んだ『死神の精度』、
中に使われている写真が素敵なことに気付くという新しい発見もあった。


写真は藤里一郎氏。

『死神の精度』に収録の6話のそれぞれの冒頭に
藤里氏のモノクロ写真が掲載されている。


彼の切り取るモノクロの世界にも惹かれる。
写真に言葉はいらない、としみじみ思った。


『死神の精度』をはじめ伊坂幸太郎の作品は
舞台や映画など映像化されているものが多いが

私は本が出たら読むので映像ではみたことがない。


私は本を読んでいる時
その情景が目に浮かぶように見えることがある。


それは書き手が上手いのだろうし
登場人物がそれだけ魅力的なのだと思う。


伊坂幸太郎の作品もそういう見えてくる物語が多い。


映像化されたものを一度観てみても面白いかもしれない。
私の目に見えていた世界とは、やはり違うだろうから
その違いを見るのもいいかもしれない…


『死神の精度』
死神の世界で調査部に属している「千葉」という名前の死神が主人公。
死神たちには、仕事上、便宜的に名前が付けられている。
名前は何故か皆、市町村名などの地名になっている。


この物語の死神は寿命や病死などには関わらない。
突然の事故、事件のみが介入する範囲という設定なのだ。


調査部の仕事は対象者を1週間で調査して
その死の可否の判断をすること。
可の判断をされたら翌8日目に実行される。


6つの物語はどこかで繋がっている。
その繋がりを見るのも面白い。


この物語の千葉という死神は「雨男」だ。
彼は太陽を一度も見たことがない。


彼はクールだが人間ではないから会話が微妙にずれることが多く
それが妙に面白い。(人間でもずれる人は多いが…)


*****(抜粋)
「俺が、仕事をするといつも降るんだ」と私は打ち明ける。
「雨男なんですね」と彼女は微笑んだが、私には何が愉快なのか分からなかった。
けれどそこで、長年の疑問が頭に浮かんだ。
「雪男というのもそれか」
「え?」
「何かするたびに、天気が雪になる男のことか」

*****



会話の受け答えが微妙にずれている。
彼らは音楽好きだ。

死神同士の交流は特にないが
仲間に会いたければCDショップに行けば必ず誰かが音楽を聴いている。


*****(抜粋)
実際のところ、私はジャンルに関係がなく、音楽が好きだった。
正確に言えば、私だけではなく、私たちはみなそうだ。
人間に対する同情や畏怖などはまったくないが、
彼らが作り出した「ミュージック」を偏愛している。

*****


私も音楽を聴くことが好きで
以前、もっと街にCD屋さんが多かった頃には
よく入り浸っていたから、音楽を視聴するという死神たちを想像して
妙に可笑しかった。



死神の特徴は
音楽好き、
会話が微妙にずれる、

苗字に地名が使われている。
素手で人を触ろうとしない。
(素手で触られた人は寿命が少し縮んで気絶する)


雨男(雨女)であることは死神全体の特徴ではない。
この物語の死神・千葉が、たまたま雨男であったというだけのことだ。



表題作「死神の精度」に登場する藤木一恵に否の判断を下した千葉。
可にするつもりでいたのに何故か見送りにした千葉。


藤木一恵
彼女は素晴らしい声を持っている。


千葉は彼女の判断をする前に思った。


*****(抜粋)
私は、人間の死に興味はない。仕事だという理由で関わっているに過ぎず、
担当している相手の人生がどのような形で終わろうと、あまり気にならない。
ただ、もし万が一、あのプロデューサーの直感が正しくて、
さらに万が一、彼女が優れた歌手となることに成功したとして、
さらにさらに、私がいつか訪れたCDショップの視聴機で彼女の曲を聴くときが来たら、それはそれで愉快かもしれないな、とは思った。

*****


藤木一恵
他のエピソードにも登場する、有名な歌手として。


千葉の気まぐれな判断で生かされた彼女は
多くの人生に影響を与えることになっていく…その歌声で。


誰にとっても今のこの瞬間のこの事こそが、
さらに続く人生の転換点だったということはある。
自覚のあるなしに関わらず、そんな瞬間があるはず。


私は、物語でも、そういう瞬間を目撃するのが好きなのだ。



『死神の精度』
死神・千葉と彼に関わる人間たち、皆、魅力的だった。


死神の精度

死神の精度